私は神と、モーツァルトとベートーヴェンを信じる。そしてその弟子たちと使徒たちをも。私は聖霊と、唯一にして不可分の芸術の真理を信じる。この芸術は神から生まれ、照らされたすべての人々の心に生きていると、私は信じている。

ワーグナー

原文(出典原語):I believe in God, Mozart and Beethoven, and likewise their disciples and apostles; – I believe in the Holy Spirit and the truth of the one, indivisible Art; – I believe that this Art proceeds from God, and lives within the hearts of all illumined men.

この名言の背景

この言葉は、ワーグナーが自らの芸術信条を、キリスト教の使徒信条の形式を借りて記した有名な一節です。A-Z Quotes、Lib Quotes、Goodreadsなど複数の音楽史資料で引用されている、彼の芸術観を最も端的に示す信条告白です。

使徒信条の「我は神を信ず」という形式に倣って、ワーグナーは「神、モーツァルト、ベートーヴェン」を並べました。これは神を冒涜しているのではなく、音楽芸術を宗教と並ぶ神聖な領域として扱う決意の表明でした。

特に「モーツァルトとベートーヴェン」を選んだ点に注目すべきです。自分より古い時代の、すでに古典となった二人の巨匠を、「信仰の対象」と呼ぶ謙虚さ。自分の時代の流行ではなく、本物の普遍的な芸術を仰ぎ見る姿勢が表れています。

芸術|神性への通路となりうる創造

この信条の深さは、「芸術は神から生まれる」と断言した点にあります。芸術家は自分の力だけで創造するのではない。神的な霊感が、芸術家を通して作品になる――この感覚を、多くの偉大な芸術家が共有してきました。

バッハは楽譜に「S.D.G.(唯一神の栄光のために)」と記しました。モーツァルトは「音楽を作るのは神だ」と言いました。ベートーヴェンは音楽を「あらゆる知恵と哲学より高い啓示」と呼びました。ワーグナーはこの系譜の中で、芸術の神聖性を改めて宣言したのです。

「照らされた人々の心に生きる」という表現も深い意味を持ちます。芸術は、特定の人だけのものではない。受け取る側の心が「照らされて」いれば、誰の中でも芸術は生きる。創造者と受容者の両方に、神的な何かが働いている――これは芸術体験の本質を語っています。

この名言から学べること

自分が何かを創造する時、全てを自分の力で成し遂げようとしなくてよい、というワーグナーの示唆です。自分を超えた何かが通り抜けていく通路として、自分が働く。この感覚を持てる人は、創作の重荷を軽くでき、また結果に一喜一憂しない余裕を持てます。

また、他者の作品に触れる時も、「照らされた心」で受け取る準備が大切です。芸術は、こちらの受容力に応じて、いくらでも深い体験になります。忙しく消費するのではなく、心を開いて受け取る時間を、日々の生活の中に確保したいものです。